日産の件について

こんばんは。

 

 今回は、日産自動車㈱(以下、「日産」とする)が公表したカルロス・ゴーン氏及びグレッグ・ケリー氏が関与したとされる不正行為について、本日までの情報と会計監査に与える影響について簡単に整理しようと思う。

 今日では様々な情報源があり、どの情報が正確なものか判別することが困難であることから日産が公表したリリース情報と記者会見の情報のみに基づいてまとめることとする。

 

1.時系列(以下、日産HPを参考)

・2018年11月19日(月)

 西川廣人社長が午後10時半から記者会見

 「当社代表取締役会長らによる重大な不正行為について 」を公表

 ①ゴーン氏の報酬について開示される自らの報酬を少なくするために、実際の報酬額よりも減額した金額を有価証券報告書に記載

 ②目的を偽って、私的に投資資金を支出

 ③私的な目的で経費を支出 

・2018年11月22日(木)

 「代表取締役の異動に関するお知らせ」を公表

 カルロス・ゴーン氏及びグレッグ・ケリー氏が代表取締役から取締役となり、代表権が剥奪されている。

・2018年12月10日(月)

 「当社に係る金融商品取引法違反について 」を公表

 ゴーン氏及びケリー氏、日産が金融商品 取引法違反(虚偽有価証券報告書提出罪)により起訴されている。

 「過年度有価証券報告書等の訂正予定に関するお知らせ」

 開示すべき役員報酬の金額を精査し、有価証券報告書及び四半期報告書の訂正の可能性を示唆している。

 

2.各不正行為が財務数値へ与える影響

 これから不正行為に対して監査上検討が必要となる事項について簡単な私見を述べるが、具体的な情報が乏しためやや抽象的にならざるを得ないことをあらかじめ申し添えておく。

(1)不正行為①(有価証券報告書の虚偽記載)について

 重大な不正行為①は、有価証券報告書役員報酬の虚偽記載がなされた旨のみ示されており、具体的に有価証券報告書のどの項目において虚偽記載が行われていたのかが明らかにされていない(12月10日公表の訂正予定でも同様)。有価証券報告書役員報酬が関係する項目は「第4提出会社の状況」と「第5経理の状況」の2か所であり、財務諸表監査(いわゆる会計監査)の監査対象となるのは「経理の状況」のみである。

 ここでは、不正行為が財務数値、開示書類へ与える影響とその影響に対する財務諸表監査上の対応について述べると同時に、内部統制への影響について考察する。なお、日産は上場企業であり、内部統制報告制度の対象となっていることから内部統制への影響についての考察は内部統制監査を前提としている。

①財務数値への影響

 有価証券報告書上で報酬の過少表示が行われる可能性がある個所は2か所あるため、パターンとしては3つある。①経理の状況のみの誤り、②提出会社の状況のみの誤り、③経理の状況と提出会社の状況の両者の誤りが考えられる。有価証券報告書を確認すると連結損益計算書(単体も同様)上で役員報酬は別掲されていないため、「第4提出会社の状況」の役員の報酬との整合性を確認することはできないが、③は①と②において検討済みとなることから③への言及は省略する。

 まず、①経理の状況が誤っていた場合、財務諸表監査においてしかるべき手続きを実施していたにもかかわらず、当該誤謬が発見できなければ監査の失敗といわざるを得ないかもしれない。しかし、財務諸表監査上の重要性の基準値が350億程度(監査基準委員会報告320A6の例示により算出:税引前純利益約7,000億×5%)であるとすれば、数億程度の誤りは僅少な額として監査上問題となっていない可能性がある。

 仮に経理の状況に誤謬があった場合、当該誤謬を修正するか否かが問題となる。重要性がない場合、遡及修正を行うことはなく誤謬発覚時の損益計算書へ影響額を反映させることになるだろう。ただし、修正が必要となった場合は当該誤謬の影響が重要であると判断されたことの証左であり、訂正報告書の発行及び訂正後財務諸表への監査対応が必要となる。

 次に②提出会社の状況が誤っていた場合だが、いわゆる前段(経理の状況以外)については財務諸表監査の対象外となっていることから、当該記載場所の数字が誤っていたところで財務諸表監査上問題とはならないと考えられる。しかし、監査基準委員会報告書720では財務諸表との重要な相違を識別するためにその他の記載事項(今回は有価証券報告書の前段)を通読することが求められている。そのため、損益計算書の基礎数値と提出会社の状況に重要な相違があれば監査の過程で発見されていたと考えられる。ただし、当該通読の過程で相違があったとしても重要性がなければ問題となっていない可能性はある。また、提出会社の状況が誤っていたとしても財務諸表監査の対象外であり、監基報720のしかるべき手続きを実施していれば、監査上特段問題ないと考えられる。

②内部統制への影響

 内部統制報告制度ではトップダウン型のリスクアプローチが採用されている。内部統制の有効性を評価するに際して、まずは全社的な内部統制(全社統制)の有効性を評価し、その後、各業務処理統制の有効性を評価することになる。

 今回の事案では、経営者が不正行為を行っていたことから経営者は誠実とはいえず、2019年3月期の監査では全社統制は有効にできないと考えられる。全社統制は各業務処理統制を支える重要な統制であるため、全社統制が非有効である以上、内部統制に依拠した財務諸表監査を実施することも困難であろう。

 現在の監査では、内部統制は財務諸表監査上も非常に重要な要素となっており、被監査会社が構築した内部統制が有効であることを前提として監査手続を行っている(有効性を検証するため運用評価手続を実施している)。内部統制が有効に整備・運用されれば、財務報告の信頼性が相当程度確保することができる。これにより虚偽表示を防止・発見する可能性が高くなり、試査による効果的かつ効率的な監査が実施できるのである。

 ここでいう効率的な監査とは、実証手続を行う際のサンプリング数のことを指している。内部統制が有効であれば、実証手続で必要とされるサンプル数を減少させることができるが、内部統制に依拠した監査ができなければ、すべて実証手続で対応することが求められる。そのため、実証手続のテスト対象となるサンプル数が増大し被監査会社と監査人の手間は内部統制に依拠した場合と比べ大幅に増大することは間違いないだろう。

 また、財務諸表監査と内部統制監査ではその監査対象が異なる点に留意が必要である。先で述べた通り財務諸表監査の監査対象は「経理の状況」のみだが、内部統制監査では「経理の状況」以外の、例えば「企業の概況」、「事業の概況」、「生産、受注及び販売の状況」、その他財務諸表監査の対象外であるセクションに係る経営者の評価の妥当性も監査対象とされている(監査・保証実務委員会報告第82号 財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い 3(3))。そのため、例え報酬の過少表示が行われていた部分が「提出会社の状況」であったとしても、内部統制報告については訂正を行う可能性が残る。

(2)不正行為②③(投資資金と経費の私的支出)について

 投資資金と経費の私的支出は、経営者による不正な財務報告(経営者が行う財務数値の改ざん)ではなく資産の流用に当たる。資産の流用とは、例えば従業員が店舗の現金を盗むといった資産の窃盗、窃用が該当する。本件の場合、日産の現金を私的な投資や支出に使用したということであろうから、経営者が自社の資産を私物化していたといえるだろう。

 会計上は、取引の実態を適正に会計処理としてあらわすことが重要となる。②③ともに「投資資金を支出」「経費を支出」とされていることから現金の動きはあり、「(借)???/(貸)現預金」といった仕訳は切られていたと考えられる。一般的に、財務諸表監査では、実査及び預金の残高確認はほぼ必須であり、現預金の実際の動きと異なる処理を行った場合、帳簿残高と実査結果、残高確認の結果に差異が生じ帳簿外の現金の支出があれば監査上露呈し金額の大小かかわらず、会計数値を修正することになるだろう。

 そのため、②③の案件において問題となるのは借方の開示科目である。日産の公表している情報だけでは具体的な内容が不明なため、投資とされている②は資産科目、③は費用科目で開示されていることを前提とし、費用計上すべき支出を資産計上し費用の先延ばしといった処理を行っていないものとして考察を進める。

 投資の場合、建物等の有形固定資産、投資有価証券や貸付金の投資その他の資産への計上が考えられる。取引発生時の計上科目が妥当だったとしても、帳簿上の取引先が実態とは異なっていた可能性がある。この場合に問題となるのは資産の評価(回収可能性)であろう。有形固定資産や投資有価証券であれば減損の対象となり、貸付金であれば貸倒引当金といった形で評価損の計上が求められる可能性がある。ただし、投資資金の支出に重要性がない場合、過年度において計上されるはずであった評価損の金額も重要性がないということになり財務数値の遡及修正はされないだろう。

 経費支出については、期間帰属に問題がないとしても損益計算書の計上区分の妥当性には疑義が残る可能性がある。費用科目は、売上原価、販管費、営業外費用、特別損失の区分のいずれかに計上され、(各会社がどの利益を重視するかにもよるが)経営者は一般的に下の区分(販管費よりも営業外費用、営業外費用よりも特別損失)に計上したがる傾向にある。損益計算書には複数の段階損益が表示されているが、上の区分のほうが本業による業績をあらわることになるため、費用項目は本業の業績を表さない下の区分に計上しようとするのである。

 

3.不正行為について

(1)ガバナンス機能の強化

 上場会社の場合、会社法上の公開会社でない会社に比べ複数の取締役、監査役等が設置される機関設計となることから相互監視が働くと考えられる。しかし、上場会社であってもワンマン社長の独裁的な経営者がいる場合もあれば、ある一族が会社の経営権を握っている場合もある。近年はコーポレートガバナンスコードにより社外役員を積極的に招き入れているが、前述のような経営者一族による独裁的経営が行われている企業ではその社外役員による監視機能は有効には働きにくいと考えられる。

 それは、社外役員を選ぶ(声をかける)のは、経営権を握っている人間であり、経営者と仲の良い人物やイエスマンで取締役会を構成しようと考えることが通常であろうから、自分自身に反抗する人物を社外役員として招き入れる可能性は格段と低くなるだろう。

 また、会社法の改正で非上場の大会社についても社外取締役の設置を義務化するような案がでている。しかし、大会社であっても非上場会社であれば、経営者一族による会社運営はより顕著であると考えられ、法改正を行い形式のみを整えたとしてもその実効性には疑義が残る。

(2)不正行為が発覚した際の対応

 不正行為が発覚した場合、不正のトライアングル(機会、動機・プレッシャー、正当化)をベースに原因究明を行う。例えば、ある特定の業務が一人の担当者に長期間依存した場合、ダブルチェックを行う機会が損なわれ不正を行う機会が生じることになる。動機には予算達成のプレッシャーや業績連動型の報酬がある場合が挙げられる。当該不正を行ったとしても、帳簿上の数値を操作した場合は「誰にも迷惑をかけていない」「会社のために行った」と自らを正当化することがある。

 また、当該不正行為そのもの以外にも、不正行為を行った者が他の不正行為を行っていないのか、不正行為を行った者と同様の立場、役職の者が同様の方法で不正行為を行っていないのか、不正行為の網羅性の検討が必要である。その後、業務フローを見直し不正行為を防止できるような内部統制を構築することが求められる。

 上記の不正トライアングルに関する記述は様々な書物等で紹介されている。不正が発覚した際はその根本原因を究明することはもちろんだが、それ以上に重要なのは当該不正が発生した企業の当事者意識だろう。資産の流用に関しては明らかに企業に損失をもたらしており、不正な財務報告は事実と異なる情報を提供することで財務諸表利用者を欺いている。不正を行った者は、企業のために行い誰にも迷惑をかけていないと主張することがあるが、当該主張はあまりにも的外れなもので誰にも迷惑をかけない不正行為などないということを肝に銘じる必要があるだろう。

 

久しぶりに文章を書いてみたが、ほとんど引用をせずに自らの言葉で記すことがいかに難しいかを思い知ったいい機会だった。日産から正式な調査結果が公表されることがあれば、今一度文章構成から組みなおして書いてみようと思う。

 

数日後に読み返すと恐ろしいくらいに下手な文章なのだろうなぁ

 

 

以上

 

残業(愚痴)

こんばんは。

 

久々の投稿です。

 

ここ1年だろうか、長時間労働による過労死を防ぐために残業時間の締め付けが厳しくなってきている。

実際に上司から毎週どの程度残業を行っているのか、自分自身がどの程度仕事を抱えているのか業務内容も併せて報告するように指示されている。現実問題として報告を行っていたのは繁忙期前の3月までだった。4月に入ってからは報告しなくても何も言われない。

我ながら性格が悪いとは思うが、報告を行わなかった場合どういった反応があるのか興味があり何も報告しなかった。結果、特段アクションは見受けられなかった(業務量の把握は繁忙期は例外のようである。それどころではないので想定通りだが)。

 

そもそも部下の業務時間と業務内容を把握することを管理することだと勘違いしているのではないだろうか。

当たり前すぎて記述することさえ憚れるが、「今月の残業はあと何時間まで」といわれたところで業務量が減らなければその指示を守ったところで残りの業務を先延ばししているだけである(そろそろそのつけが回ってくるころ合いである)。

 

それほど多くはないが数人と最近の働き方改革(という名の残業時間を把握し36協定をなんとしても守り会社の面目を保つだけの行為)について話をしてきた。

残業をする側としては、根本的に人手不足であることと要求事項が増えているという事実は受け止めつつ業務の分散を図るために仕事をしている面がある。これは上司部下関係なくなるべく均等に負担して乗り切ろうという考えているからである(部下よりも上司のほうが業務量が多くなるのは致し方ないかもしれないが)。

にもかかわらず、残業をするなと一方的にいわれるだけでは著しくモチベーションが低下する。もともと働くこと自体が好きではないがさらに嫌になった。

また、先に自分自身が抱えている業務内容を報告していると述べたが、その報告に対する改善案というか、どのようにだれがいつ処理していくかといった具体的な意見を今まで耳にしたことがない。結局は把握するだけなのである。というのこともあり報告すること自体に意義が見いだせないことから筆者自身積極的に報告したことはない(よく督促のメールが来ていた)。

 

くたばれPTA

 

以上

 

 

 

【JICPA】監査委員会報告第73号「訴訟事件等に係わるリスク管理体制の評価及び弁護士への確認に関する実務指針」の改正について

こんばんは。

 

今回は弁護士確認の改正について。

 

本改正は、250「財務諸表監査における法令の検討」の改正を契機として、監基報との関係の明確化の観点から、委員会報告の構成、用語等について全体的な見直しを行ったものである。本件の公開草案について意見を求めたが、意見は寄せらなかった模様。

 

会社⇒企業や弁護士⇒顧問弁護士、確認⇒質問書の送付といったように表現が改められているが、実質的な内容に変更はないようである。また、質問書(要約書添付方式)だけでなく、質問書(白紙送付方式)が付録に追加されている。

 

マインドブランド

 

以上

 

ブログ

こんばんは。

 

継続することは難しい。

このブログは日々の考えや思いを記録するために始めたのだが、書く内容がなかなか決まらなかったりする。考えすぎなのだろう。

 

また、ブログを書くことで入手した情報を整理する機会を設けるという意図もあるわけで。とはいえ、情報が氾濫している世の中ですべてを逐一整理していたらきりがない。

 

そこで、当分は下記3点の情報源(たまには④国税庁もみる)から入手したものに限って整理対象とすることとする。これは、筆者自身が定期的に情報を入手する機会を設けることも意図している。

少なくとも週に1回は整理したい(理想は毎日なのだろうが、、、)。

 

金融庁

金融庁ホームページ

②ASBJ

企業会計基準委員会:財務会計基準機構|

JICPA

日本公認会計士協会

国税庁

国税庁ホームページ

 

シャルル

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以上

 

減損損失

こんばんは

 

 今回は固定資産の減損に係る会計基準(以下、「基準」という)を通読した。

 基準に目を通していると、一見選択適用のように見えて優先順位が決められている項目がある。ここでは、①減損の兆候と②回収可能価額について触れることとする。

 

①減損の兆候

 基準では減損の兆候として4点を例示しており、一つ目に「資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること」が示されている。

 取り上げるのは「営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フロー」の部分である。基準本文だけでは営業損益とキャッシュ・フローのいずれを優先的に判断基準として用いるべきかは読み取ることはできない。しかし、基準の適用指針12項(3)では、「現存の兆候の把握には『営業活動から生ずる損益』によることが適切であるが、管理会計上、『営業活動から生ずるキャッシュ・フロー』だけを用いている場合には、・・・」と記載されている。当該記述より、キャッシュ・フローではなく営業損益を優先して判断基準として用いることを想定している。

 その理由を当該規定の結論の背景である80項では、①企業の将来CFを予測するためには現金基準に基づく利益より、発生基準に基づく利益が有用と考えられること、②管理会計上、「営業活動から生ずる損益」の把握が一般的であることの2点を挙げている。基準上、減損の兆候でキャッシュ・フローについて例示しているのは、管理会計上、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」だけを把握している企業の場合、当該数値により減損の兆候を把握することが可能であることを示していると解され、これは実務への配慮であろう。

 「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」の使用を限定しているのは、上記の理由もあるだけではなく、一般的に営業損益よりもキャッシュ・フローのほうが多額となることが想定され(簡便的なCFは営業損益+減価償却費)、減損の兆候判定が緩くなることを危惧してのことではないだろうか。

 

②回収可能価額

 基準では、事業用固定資産の収益性が低下している場合、収益性を反映させるため当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額する必要がある。これは、金融商品の時価評価のように資産価値の変動により利益を測定することや、決算日の資産価値をBSに反映させることを目的にするものではない(基準意見書三1項)。

 収益性を反映させるということは資産価値を反映しているようにも考えられるが、通常は複数の資産が一体(グルーピング)となってキャッシュを生み出すこととなる。減損金額はグルーピング単位で測定され、その後構成単位の資産に減損金額が配分されるため、減損後の帳簿価額は資産価値を示すものではない。

 

回収可能価額に関する用語の定義は下記のとおりである。

  回収可能価額とは、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(基準注解(注1)1)

 正味売却価額とは、資産又は資産グループの時価から処分費用見込み額を控除して算定される金額をいう(基準注解(注1)2)

 使用価値とは、資産又は資産グループの継続的しようと使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をいう(基準注解(注1)4)

 

  回収可能価額は、「正味売却価額と使用価値のいずれか高い方」とされている。しかし、適用指針には下記の通り記載されている。

 「現在時点の正味売却価額は、将来時点の正味売却価額と異なり、より厳密に企業が売却等により受け取ることのできる価額であると考えられる」(適用指針111項(1))

 「回収可能価額は、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額であり、正味売却価額が使用価値より高い場合、企業は資産又は資産グループをすでに売却していると考えられると考えられるため、通常、使用価値は正味売却価額より高いと考えらえる。したがって、減損損失の測定において、明らかに正味売却価額が高いと想定される場合や処分がすぐに予定されている場合などを除き、必ずしも現在の正味売却価額を算定する必要はない」(適用指針111項(2)28項)

 基準における回収可能価額については、時折、経営者が資産を売却するか、継続使用するかの経営者の意思決定や売却の実行可能性について考慮する必要がなく、経済合理性の観点から正味売却価額と使用価値のいずれか高い方を採用すれば足りると説明されることがある。

 しかし、適用指針を通読すると回収可能価額として使用価値を採用することを念頭に置いているように読み解ける(適用指針太字参照)。基準の対象資産が固定資産(金融資産等を除いた事業用資産。ここで事業用資産としているのは、適用指針6項より経過勘定も除かれることから、主として事業用資産を適用対象として想定しているのではないだろうか)である以上、資産の継続使用を前提とするのは当然であり、通常、事業用資産の売却は容易に決まるものではなく(中古市場があり、比較的容易に売買可能となる場合は除かれると考えられる)、正味売却価額を採用する場合は、売却の意思決定が行われており、早期処分の確実性が高い場合にのみ限って採用するべきであろう。

 

 また、税効果会計において繰延税金資産の回収可能性(スケジューリング)の際には、事業計画の実行可能性、固定資産の売却計画について検討を行うにもかかわらず、減損損失についてだけ安易に正味売却可能価額と使用価値のいずれか高い方を採用すればよいとされ、資産売却の実行可能性について検討不要とするのでは内的整合性が確保されていないといえるだろう。

 

 長文となり恐縮だが(基準参照しながらのため致し方ないが、無駄もあるように思う)、基準や適用指針の意見書や結論の背景まで読むことで初めて基準の趣旨を理解できるといった基準の構成は非常に不親切に感じる(今回の事例でいえば、回収可能価額として使用価値を使用するが、早期処分が予定されている場合はこの限りではない等。とはいえこれは筆者の見解のため解釈を誤っている可能性もあるが)。

 

エデン

 

以上

 

 

誕生日

 

こんばんは。

 

昨日は妻と知り合って3回目の誕生日だった。

結婚して2回目。時の流れは速いものであっという間。

ケーキを買ってきてくれて美味しくいただいた。

切り方(笑)

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晩御飯も初めての手料理と同じパスタを作ってくれて、あの頃が懐かしい。

いつもながら安定の美味しさでした。

日々感謝。

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ちなみに去年はこんな感じ。器用で何でも作れるみたい。

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心拍数♯0822

 

以上

学者と実務家

こんばんは。

 

前回の投稿から既に3か月ほど経過し、継続することの難しさを改めて実感している。

さらに下書きを見ていると更新日が9月末の仕掛中の記事が2件ほどあった。

書こうと思ったテーマは短期間で書き上げる必要があるようだ。

 

今回は学者と実務家。会計、監査の世界における私見である。

 

〇学者とは、実務家とは

両者は往々にして意見の対立が起こり得る。

広辞苑第六版によると両者は下記の通りである。

・学者:①学問にすぐれた人。②学問を研究する人。(学者肌:物事を論理的に考えたり研究一筋に生きたりするような、学者に多く見られる気質。学究肌。学究:もっぱら学問を研究すること。また、その人。学問にうちこむ人。)ちなみに「研究者」という用語は広辞苑に登録されていなかった。

・実務家:①実務に当たる人。②実務に熟練した人。(実務:実際の事務。実地に扱う業務。)

簡単なイメージとして、学者は大学などで数多くの書籍を読み漁り論理体系について熟考している者、実務家は実際に顧客を持ち取引を行っている(業務に携わる?)者といったところであろうか。

 

〇学者と実務家の守備範囲

一見すると両者が相見えることはないが、様々な学会や講演、制度設計の場面で交流することとなる。特に重要となるのが制度設計の場面であろう。

学者からは理論的な考え方を踏まえたうえで制度としてどうあるべきかを主張するのに対し、実務家は現場(業務上)において実行可能かどうか、業務上どのような負担が増えるかといった影響を加味するしたうえで意見を述べることとなる。

そのため、学者からはまさに基本的な原則論が展開されるのだが、その中にはやや具体性に乏しい場合もある。実務家の場合、各々がそれぞれ異なった母体に所属していることから各母体の利害が優先(有利になる)されるような意見がでたり、学者からは理論的でない意見が、さも理論的にであるかのように主張されることがある。

上記のような両者が議論の場に参加することでのデメリットを打ち消し、補完することができる。実務家は学者に対しより具体的な事案を提示し、学者は実務家の主張をより正確な(?)論理体系に補正することとなる。そのため、学者と実務家が制度設計の場面では議論に参加する必要がある。

 

〇3つの視点

ある分野について精通するためには3つの視点について理解しておく必要がある。

①純理論的な考え方、②制度論としての在り方、③実務上の実行可能性。

①と②は学者、②と③は実務家の守備範囲であり、①については学者に及ばないまでも実務家も一定の理解はしているところであろう。

当然理想は3つすべての視点について理解しておくことだが、①か③のいずれかが片手落ちとなり、現実的にはかなり難しいだろう。学者の世界であろうと実務家の世界であろうと長期的な離脱はあまり好ましくないように思う。いずれかの世界に軸足を置きながらもう一方の部分について見識を深める必要がある。実務家が①の分野について理解を深めるためには学会への参加等により、その機会が確保されているように思うが、学者が現場に出る場面を聞いたことがない。最も欠けているのはこの部分なのだろう。

なかなか難しいかもしれないが、学者の方々が現場に出て少しでもその状況を認識することで新しい制度の導入がどれだけ実務上影響を与えているのか目の当たりにしていただけるとよいのかもしれない。

 

エデン

 

以上