減損損失

こんばんは

 

 今回は固定資産の減損に係る会計基準(以下、「基準」という)を通読した。

 基準に目を通していると、一見選択適用のように見えて優先順位が決められている項目がある。ここでは、①減損の兆候と②回収可能価額について触れることとする。

 

①減損の兆候

 基準では減損の兆候として4点を例示しており、一つ目に「資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること」が示されている。

 取り上げるのは「営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フロー」の部分である。基準本文だけでは営業損益とキャッシュ・フローのいずれを優先的に判断基準として用いるべきかは読み取ることはできない。しかし、基準の適用指針12項(3)では、「現存の兆候の把握には『営業活動から生ずる損益』によることが適切であるが、管理会計上、『営業活動から生ずるキャッシュ・フロー』だけを用いている場合には、・・・」と記載されている。当該記述より、キャッシュ・フローではなく営業損益を優先して判断基準として用いることを想定している。

 その理由を当該規定の結論の背景である80項では、①企業の将来CFを予測するためには現金基準に基づく利益より、発生基準に基づく利益が有用と考えられること、②管理会計上、「営業活動から生ずる損益」の把握が一般的であることの2点を挙げている。基準上、減損の兆候でキャッシュ・フローについて例示しているのは、管理会計上、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」だけを把握している企業の場合、当該数値により減損の兆候を把握することが可能であることを示していると解され、これは実務への配慮であろう。

 「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」の使用を限定しているのは、上記の理由もあるだけではなく、一般的に営業損益よりもキャッシュ・フローのほうが多額となることが想定され(簡便的なCFは営業損益+減価償却費)、減損の兆候判定が緩くなることを危惧してのことではないだろうか。

 

②回収可能価額

 基準では、事業用固定資産の収益性が低下している場合、収益性を反映させるため当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額する必要がある。これは、金融商品の時価評価のように資産価値の変動により利益を測定することや、決算日の資産価値をBSに反映させることを目的にするものではない(基準意見書三1項)。

 収益性を反映させるということは資産価値を反映しているようにも考えられるが、通常は複数の資産が一体(グルーピング)となってキャッシュを生み出すこととなる。減損金額はグルーピング単位で測定され、その後構成単位の資産に減損金額が配分されるため、減損後の帳簿価額は資産価値を示すものではない。

 

回収可能価額に関する用語の定義は下記のとおりである。

  回収可能価額とは、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(基準注解(注1)1)

 正味売却価額とは、資産又は資産グループの時価から処分費用見込み額を控除して算定される金額をいう(基準注解(注1)2)

 使用価値とは、資産又は資産グループの継続的しようと使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をいう(基準注解(注1)4)

 

  回収可能価額は、「正味売却価額と使用価値のいずれか高い方」とされている。しかし、適用指針には下記の通り記載されている。

 「現在時点の正味売却価額は、将来時点の正味売却価額と異なり、より厳密に企業が売却等により受け取ることのできる価額であると考えられる」(適用指針111項(1))

 「回収可能価額は、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額であり、正味売却価額が使用価値より高い場合、企業は資産又は資産グループをすでに売却していると考えられると考えられるため、通常、使用価値は正味売却価額より高いと考えらえる。したがって、減損損失の測定において、明らかに正味売却価額が高いと想定される場合や処分がすぐに予定されている場合などを除き、必ずしも現在の正味売却価額を算定する必要はない」(適用指針111項(2)28項)

 基準における回収可能価額については、時折、経営者が資産を売却するか、継続使用するかの経営者の意思決定や売却の実行可能性について考慮する必要がなく、経済合理性の観点から正味売却価額と使用価値のいずれか高い方を採用すれば足りると説明されることがある。

 しかし、適用指針を通読すると回収可能価額として使用価値を採用することを念頭に置いているように読み解ける(適用指針太字参照)。基準の対象資産が固定資産(金融資産等を除いた事業用資産。ここで事業用資産としているのは、適用指針6項より経過勘定も除かれることから、主として事業用資産を適用対象として想定しているのではないだろうか)である以上、資産の継続使用を前提とするのは当然であり、通常、事業用資産の売却は容易に決まるものではなく(中古市場があり、比較的容易に売買可能となる場合は除かれると考えられる)、正味売却価額を採用する場合は、売却の意思決定が行われており、早期処分の確実性が高い場合にのみ限って採用するべきであろう。

 

 また、税効果会計において繰延税金資産の回収可能性(スケジューリング)の際には、事業計画の実行可能性、固定資産の売却計画について検討を行うにもかかわらず、減損損失についてだけ安易に正味売却可能価額と使用価値のいずれか高い方を採用すればよいとされ、資産売却の実行可能性について検討不要とするのでは内的整合性が確保されていないといえるだろう。

 

 長文となり恐縮だが(基準参照しながらのため致し方ないが、無駄もあるように思う)、基準や適用指針の意見書や結論の背景まで読むことで初めて基準の趣旨を理解できるといった基準の構成は非常に不親切に感じる(今回の事例でいえば、回収可能価額として使用価値を使用するが、早期処分が予定されている場合はこの限りではない等。とはいえこれは筆者の見解のため解釈を誤っている可能性もあるが)。

 

エデン

 

以上